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札幌地方裁判所 昭和54年(行ウ)11号 判決

原告 株式会社北興信用商事 破産管財人 広井淳

被告 厚真町長

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五四年八月一七日付でなした別紙第一、第二物件目録記載の土地に対する昭和四九年度から同五二年度までの特別土地保有税に対する更正の請求ならびに過誤納金還付請求は受け付けられないとした処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、被告に対し、昭和五四年五月二四日発信の書面で、別紙第一、第二物件目録記載の各土地(以下一括して「本件土地」という。)に対する昭和四九年度から同五三年度までの特別土地保有税につき、更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)ならびに過誤納金還付請求の申立をした。本件更正の請求は、昭和四九年度から同五一年度までの分については地方税法二〇条の九の三第二項一号に基づくもの、同五二、五三年度分については同法二〇条の九の三第一項及び同条二項一号の両者に基づくものであり、その理由は次に述べるとおりである。即ち、昭和四九年度から同五三年度までの本件土地に対する特別土地保有税は、訴外株式会社北興信用商事(以下「訴外会社」という。)が昭和四九年に別紙第一物件目録記載の土地(以下「本件第一土地」という。)を、次いで、同五〇年に別紙第二物件目録記載の土地(以下「本件第二土地」という。)を、いずれも時価相当額で購入したものとしてその税額が算定されているが、実際は、訴外大沢伝蔵と訴外宮崎磯市が昭和四四年一〇月から一一月にかけて、本件土地所有権共有持分各三分の一ずつをそれぞれ金一〇〇〇万円で取得したものであるから、右両名が本件土地の共有持分各三分の一ずつをそれぞれ一〇〇〇万円で取得したものとして、その税額が算定されるべきであるというものであり、また、昭和五四年三月三一日、苫小牧簡易裁判所において成立した同裁判所昭和五〇年(ハ)第九三号、第九四号事件(原告大沢伝蔵、同宮崎磯市、被告本訴原告)の訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)により、前記のとおり右大沢、宮崎に持分三分の一ずつの所有権共有持分があるとの、昭和四九年度から同五一年度までは訴外会社に対し、同五二年度、同五三年度は原告に対し本件土地の取得又は保有につき課税された特別土地保有税に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実と異なる事実の存することが確定したから、右に述べた訴外大沢、同宮崎の真実の取得価格に基づき税額を算定すべきであるというものである。

被告は、昭和五四年八月一七日付で、右申立に対し、

「(一) 昭和五三年度分申告納税に係る更正請求は受理する。

(二) 昭和五三年度分申告を更正決定する。

(三) 上記により過誤納となつた税金を還付する。」旨の決定をした。そして、その理由とするところは、地方税法二〇条の九の三第一項により更正の請求は当該申告にかかる地方税の法定納期限から一年以内に限られているから、昭和四九年度から昭和五二年度までの申告納税に係る更正請求は受付けられないというものであつた。

2  しかしながら、本件更正の請求は、その申告、更正又は決定(以下「決定等」という。)に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に関する訴についての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)(以下「判決、和解等」という。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したことを理由の一としているから、地方税法二〇条の九の三第二項により同条一項の制約は受けないものである。したがつて、被告が、昭和五四年八月一七日付でした、右更正の請求及び過誤納金還付請求に対する決定のうち、昭和四九年度から同五二年度までの申告納税に係る更正請求を受付けられないとして容れるところなかつた決定(以下「本件処分」という。)は、違法である。

3  原告は、被告に対し、昭和五四年九月一〇日、行政不服審査法に基づき、本件処分につき異議の申立をしたが、被告は、同年一〇月六日到達の書面で右異議申立を却下した。

よつて、原告は、被告に対し、本件処分の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。なお、本件処分に「更正請求は受付けられない。」とあるのは、更正請求は却下ないし棄却するとの趣旨である。

2  同2の主張は争う。

3  同3の事実は認める。

三  被告の主張(本件処分の適法性)

1(一)  訴外会社は、昭和四九年一二月六日、いずれも厚真町に所在する本件第一土地を売買により取得し、右同日同日付売買を原因とする所有権移転登記手続を経た。次いで訴外会社は、前同日、同じくいずれも厚真町に所在する本件第二土地を売買により取得し、昭和五〇年一月一〇日、同四九年一二月六日付売買を原因とする所有権移転登記を経た。

(二)  訴外会社は、右のとおり本件土地を取得したものであるから、特別土地保有税の納税義務者であるところ、訴外会社からは昭和五一年度に至るまで各所定期間内にその旨の納税申告書が提出されなかつた。そこで、被告は、昭和五一年九月二四日、訴外会社に対し、地方税法六〇六条二項に基づき、左のとおりの特別土地保有税賦課決定をし、同日該決定通知書を訴外会社に交付した。

(1) 昭和四九年度本件第一土地取得分

税額     二七一万八六六〇円

不申告加算金  二七万一八〇〇円

(2) 昭和五〇年度本件第一土地保有分

税額     一二六万八七〇〇円

不申告加算金  一二万六八〇〇円

(3) 昭和五〇年度本件第二土地取得分

税額      五三万九五二〇円

不申告加算金   五万三九〇〇円

(4) 昭和五一年度本件土地保有分

税額     一五二万〇〇三〇円

不申告加算金  一五万二〇〇〇円

なお、特別土地保有税の課税標準である本件土地の取得額は、訴外会社からなんらの申告、申出がなかつたため、被告において三・三平方メートル当り二〇〇〇円と評価し、第一土地につき九〇七〇万八〇〇〇円、第二土地につき一八〇〇万円、計一億八七〇万八〇〇〇円と算出したものである。

(三)  訴外会社は、昭和五一年一〇月五日破産宣告を受け、原告が破産管財人となり、昭和五二年度及び昭和五三年度分の本件土地に対する特別土地保有税については、所定申告期間内に、いずれも原告を本件土地の単独所有者とし、本件土地の取得価額を右被告が評価して算出した価額とし、税額を昭和五二年度本件土地保有分一五二万一六四〇円、昭和五三年度同保有分一五一万八七四〇円とする納税申告書がそれぞれ被告に提出されたので、原告の納付すべき税額は申告額に確定した。

2(一)  原告は、昭和五四年五月二五日到達の書面で、被告に対し、昭和四九年度から昭和五三年度までの本件土地に対する特別土地保有税の更正の請求及び過誤納金還付請求を申立てた。右更正の請求の理由の要旨は、原告、訴外大沢、同宮崎が、本件土地につき持分各三分の一宛とする共有者であることが、昭和五四年三月三一日苫小牧簡易裁判所の和解成立により確定したこと、訴外大沢、同宮崎は右各持分を取得する対価として各一〇〇〇万円を支払つていること、したがつて共有者各自の持分の三分の一について、右の取得価額で課税されるべきであること等であるが、過誤納金還付請求の理由は、共有者各自が自己の持分に応じた税額を負担すべきであり、原告が既に納付した税額の三分の二は、他の共有者が負担すべきものであるから、その還付を求めるという趣旨であつた。

(二)  右更正等の請求を受理した被告は、原告の請求が、地方税法二〇条の九の三第一項に基づくもの(以下「一般の更正の請求」という。)か、同条第二項第一号に基づくもの(以下「特別更正の請求」という。)であるか判然としなかつたため、右両者の請求であると善解して、昭和五四年八月一七日次のとおり決定した。

(1) 一般更正の請求については、昭和四九年度から同五一度までの分は、訴外会社が賦課決定を受けた者であるから請求をすることができる適格を欠き、昭和五二年度分は請求期間を徒過していることから、いずれも不適法であるとして却下した。昭和五三年度分については、調査した結果、本件土地の持分取得に際し、訴外大沢、同宮崎において訴外兼松泰晴に対し各一〇〇〇万円を支出していたことが判明し、これに対し、訴外会社が得た持分の取得価額は不明であつたためその価額は被告の評価した三・三平方メートル当り二〇〇〇円を変更する必要はないものと判断し、本件土地の取得価額を、訴外大沢、同宮崎が支出した計二〇〇〇万円から、本件第一土地の一部が昭和五三年当時いわゆる海成地となつていたことによる減額分即ち右海成地の持分三分の二の取得価額相当分を按分比例により算出した額を控除した残額一八二四万円と、原告の持分の一の取得価額三六二三万六〇〇〇円との合計額五四四七万六〇〇〇円に修正して、税額を更正した。

(2) 特別更正の請求については、昭和五四年三月三一日苫小牧簡易裁判所において成立した本件和解条項は別紙和解条項のとおりであるところ、右和解条項によれば本件土地が原告、訴外大沢、同宮崎の三名の共有であることが確認されているだけであるから、かかる事実は、本件土地が原告の単独所有から原告を含む三名の共有となつたこと、したがつて原告を含む三名が特別土地保有税の連帯納税義務者(地方税法一〇条、一〇条の二)となつたことを意味するにすぎず、課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に何ら変化をきたすものではなく、したがつて特別更正の請求をなしうる実体的要件を具備しないとの理由でこれを棄却した。

(3) なお、原告の右更正等の請求に対する被告の決定書においては、「更正請求は受付けられない」との表現を用いたため、不受理処分であるかのような誤解を招くことになつたが、右は、一般の更正の請求を却下し、特別の更正の請求を棄却するとの趣旨である。

3  以上のとおりであるから、右の昭和四九年度から同五二度までの特別土地保有税の一般の更正の請求を却下し、特別更正の請求を棄却した被告の本件処分はすべて適法である。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

1(一)  被告の主張1(一)の事実のうち、訴外会社が、昭和四九年一二月六日、本件第一土地につき同日付売買を原因として所有権移転登記を、同五〇年一月一〇日、本件第二土地につき同四九年一二月六日付売買を原因として所有権移転登記をそれぞれ経たことは認め、その余の事実は否認する。

(二)  同1(二)の事実のうち、訴外会社が同1(一)のとおり本件土地を取得したことは否認し、その余の事実は認める。

(三)  同1(三)の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実は認める。

(二)  同2(二)(1)(2)については、被告主張の経過と理由により被告主張の決定がなされたことは認める。但し、被告が同2(二)(2)において主張する特別更正の請求を棄却した決定の理由については原告において全面的に争うものである。

(三)  同2の(二)(3)の主張は争わない。

3  同3の主張は争う。

4  ところで、本件更正の請求は、昭和四九年度から同五二年度までの特別土地保有税の特別更正の請求と、昭和五二、同五三年度の特別土地保有税の一般の更正の請求とを含むものであるところ、一般の更正の請求が被告主張の理由により不適法であることは争うものではないが、特別更正の請求は以下に述べる理由により、その要件を満しているから、更正決定をすべきであり、これを棄却した本件処分は違法である。

(一) 地方税法二〇条の九の三第二項一号の定める「課税標準等又は税額等の計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」とは、判決、和解等により、新たな税額算定への基礎となる事実、または法律関係の明示とその確定を必要とせず、従前の計算の基礎としたところと異なることが明らかになり、これが確定したことをもつて足り、その確定したところのみによつては新たな税額算定をなさしめる事実関係または法律関係が明らかにされていなくても特別更正の請求が認められ、右更正の請求の手続内において、新たな税額算定の基礎となる事実の主張立証が許される趣旨と解すべきである。

(1) その根拠の第一は、地方税法二〇条の九の三第二項一号が、特別更正の請求を認める要件として、判決、和解等により新たな税額算定の基礎となる事実または法律関係の明示とその確定も必要とせず、従前の決定等に係る課税標準等または税額等の計算の基礎としたところと異なることが確定しさえすればよいと規定していることである。

(2) 第二に、判決、和解等は、具体的な権利義務、または法律関係の存否、範囲を確定するものであり、それに必要な範囲の事実が述べられるに過ぎず、それだけで新たな税額算定の基礎となる事実関係または法律関係が明示されてこれが確定することは有り得ない。前掲条文は、このような訴訟制度の本質と実体を前提として設けられたものと考えられるから、新たな税額等の計算の基礎となる事実の明示とその確定までは要求していないと解すべきである。

(3) さらに、特別更正の請求の制度の理由を考えてみると、訴訟中の当事者が、訴訟における主張と矛盾する事実を基礎とする更正の請求はできないから、訴訟中の事案に関連する税の更正の請求について法定納期限から一年以内にこれを行うことを要求することは甚だ不都合である。また、訴訟による権利関係の確定によりはじめて更正の請求の事由が生じたともいえるのである。特別更正の請求の制度趣旨は右に述べたような訴訟の当事者となつた者が更正の請求をすることが不可能であるという不都合をさけるためであるから、訴訟に関連する事項であるため訴訟確定前に更正の請求をすることが不可能である場合には、当該訴訟の判決、和解等によつて新たな税額等が明らかにならないからといつて、更正の請求を許さないものとすれば、訴訟の当事者となつた者の不都合をさけるという立法趣旨は事実上機能を果さないこととなつて不当である。

(4) さらに、判決、和解等は、権利義務、法律関係の存否、範囲を確定するものであつて、それに必要な範囲で事実を記載すれば足り、新たな税額算定の基礎となる事実が網羅されるわけではない。たまたま裁判所が新たな税額算定の基礎となる事実、例えば売買代金を判決文に記載すれば税法上救済され、記載しなければ救済されないことになり、これでは偶然の事象によつて結論が左右されることになつて不合理である。この不合理は前記(3)の不当性を一層増大させるものでもある。判決文への掲載の有無を問わず特別更正の請求を認め、新たな税額算定の基礎となる事実の立証に成功すればこれを認容し、不成功に終れば棄却するということでよいはずである。

(5) 最後に、右に述べた原告の主張は、大量の事務を迅速に処理するという要請の働く行政の分野では必ずしも受け入れられないかもしれないが、特別更正の請求は、特別な事情に基づく例外的事象であるから、大量の事務を迅速に処理するという要請の働く分野であるとはいえず、したがつて原告の前記主張は許されるものと解する。

(二) そこで、本件和解が、特別更正の請求の要件を具備する理由を述べる。

(1) 昭和四九年から昭和五一年までは賦課決定、昭和五二年は申告に係る本件土地についての特別土地保有税は、原告が、単独で、昭和四九年から同五〇年にかけて、本件土地を、時価相当額で購入したとの事実を課税標準、税額等の計算の基礎としている。一方、本件和解によつて終了した訴訟は、訴外大沢、同宮崎が本件土地につきそれぞれ共有持分三分の一ずつを有することに基づき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めるものであつて、右本件決定等にかかる課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に関する訴であり、その訴についての本件和解により、訴外大沢、同宮崎が、それぞれ本件土地の共有持分三分の一を有し、同訴外人の共有持分取得の原因は真正な登記名義回復であるところから、原告は昭和四九年から同五〇年にかけて本件土地の共有持分三分の一を取得したにすぎないことが確定されたのである。すなわち、これによつて、原告が昭和四九年から同五〇年にかけて本件土地全部を売買により取得したという事実が覆えされた、つまり、課税標準等、税額等の計算の基礎となつた事実と異なることが確定されたものである。確かに、原告、訴外大沢、同宮崎の三名の共有に属することのみでは新たな税額は明らかにならないが、原告が本件土地の共有持分三分の一を取得したにすぎないことを確定したことにより、新たに、訴外大沢、同宮崎が、それぞれ、いつ、いかなる価額で本件土地の共有持分三分の一を取得したのかという問題が生じ、これを主張立証することによつて、新たな税額を明らかにすることができるのである。被告は、本件和解により原告の単独所有から三名の共有に移行したこと、したがつて原告を含む三名が連帯債務者となつたことを意味するにすぎないと主張する。共有者である原告を含む三名が連帯債務者となることは当然であるが、その前段に、いかなる税額について連帯債務者となるかという問題が別個に存在する。原告が、単独で本件土地を取得したとの事実が、原告は本件土地の三分の一を取得したものにすぎないと覆えされてしまつたのであるから、原告についてのみ取得時期、取得価額が確定されているだけであり、他の共有者各人について、その取得時期、取得価額が改めて詮索され明らかにされる必要が生じているのであつて、被告の主張は右段階を無視した議論といわざるを得ない。

(2) 本件において、新たな課税標準等または税額等の計算の基礎となる事実を立証することは可能で、事実、被告は昭和五二年度の特別土地保有税については取得価格の修正によるとの理由で更正決定しているのであり、昭和四九年度から同五〇年度までの分についても、昭和五三年度分の更正に用いた資料と同一の資料により更正決定することができる。

(3) さらに、原告は、本件和解によつて終了した訴訟において訴外大沢、同宮崎と、本件土地が原告の単独所有であるか、右三名の共有に属するものであるかを争つていたから、右訴訟が本件和解により終了する前に訴外大沢、同宮崎が本件土地の共有持分を取得したものであるとの理由により更正の請求をすることは不可能であつて、右の事情からすれば、更正の請求を認めたうえで、新たな税額算定の基礎となる事実の主張立証を許すことが、特別更正の請求の立法趣旨に副うことになるのである。

五  被告の反論

1  原告は、本訴において、昭和四九年から同五〇年にかけて訴外会社が本件土地を取得したことを否認しているが、昭和五二年度及び昭和五三年度分の本件土地に関する特別土地保有税については、原告から、原告を本件土地の単独所有者とし、同土地の取得価額を被告が昭和四九年度から同五二年度までの本件課税処分に際し評価した価額と同額とする旨の各納税申告書が、申告期間内に被告に提出されており、これは、原告において訴外会社が昭和四九年から同五〇年にかけて、本件土地を単独所有したことを自認していたものというべきであり、本訴においてこれを否認するのは筋のとおらない話である。

2  原告は、判決、和解等によつて必ずしも税額算定等の基礎となる事実が明示されないから、特別更正の請求において、新たな税額算定の基礎となる事実の主張、立証が許されるべきであると主張する。しかし、私人間の訴訟における判決、和解等によつて、税額算定の基礎となる事実に変更をもたらすこと、たとえば、課税客体の取得が否定されたり、取得価額が減額されたりすることは往々にしてあり得るところである。地方税法二〇条の九の三第二項一号は右のような場合における減額更正を規定したものである。

また、特別更正の請求は、納税申告又は賦課決定により既に確定している税額を、公権的紛争解決機関が関与して確定した判決、和解等の存在する場合に限り、判決、和解等をそのものを唯一の立証資料として例外的に租税を減額する制度であつて、これらの資料が存在しない場合は、課税処分取消等の行政訴訟によらしめる趣旨で設けられたものであるから、更正の請求者に新たな主張や判決、和解等以外の立証資料の提出を許容したものではない。本件特別更正の請求における唯一の立証資料である和解調書によれば、本件和解の骨子は、本件土地が原告、訴外大沢、同宮崎の共有となつたことを確認したにすぎないものであつて、これだけでは右三者が本件特別土地保有税の連帯納税義務者となつたことを意味するにとどまり、決定等にかかる課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に何ら変化はないから減額更正する理由はなく、右請求を棄却した被告の決定に違法はない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  以下の事実は当事者間に争いがない。

1  訴外会社は、昭和四九年一二月六日、本件第一土地につき、同日付売買を原因とする所有権移転登記を、同五〇年一月一〇日、本件第二土地につき、同四九年一二月六日付売買を原因とする所有権移転登記をそれぞれ経た。

2  昭和五一年度に至るまで、訴外会社から特別土地保有税の納税申告書が所定期間内に提出されなかつたため、被告は、訴外会社が昭和四九年一二月六日に本件第一土地を、同五〇年一月一〇日に本件第二土地を、それぞれ、三・三平方メートル当り二〇〇〇円で購入したものとして、同四九年九月二四日、訴外会社に対し、特別土地保有税賦課決定をし、同日、該決定通知書を訴外会社に交付した。

3  訴外会社は、昭和五一年一〇月五日破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任された。原告は、本件土地に関する同五二、五三年度分の特別土地保有税について、所定申告期間内に、いずれも原告を本件土地の単独所有者とし、その取得価額を被告の右評価額とし、税額を昭和五二年度一五二万一六四〇円、同五三年度一五一万八七四〇円とする納税申告書を提出したところ、原告の納付すべき税額は申告額のとおり確定した。

4  原告は、昭和五四年五月二四日発信、同月二五日到達の書面で、被告に対し原告、訴外大沢、同宮崎が本件土地につき各持分三分の一宛とする共有者であることが本件和解により確定したこと、訴外大沢、同宮崎は右各持分を取得するための対価として各一〇〇〇万円を支払つていること等を理由として、昭和四九年から同五三年度までの本件土地に対する特別土地保有税の更正の請求ならびに過誤納金還付請求を申立てた。

5  被告は本件更正の請求を受理したが、一般の更正の請求について、昭和四九年度から同五一年度までの分は訴外会社が賦課決定を受けたものであるから請求主体としての適格を欠き、同五二年度分は請求期間を徒過しているから、いずれも不適法であるとして却下し、同五三年度については、調査の結果、訴外大沢、同宮崎が本件土地の各三分の一宛の共有者であり、共有持分取得に際し各一〇〇〇万円を支払つていること、同五三年当時本件土地の一部が海成地となつていることが判明したとし、取得価額を修正して税額を更正し、更に、特別更正の請求について、本件和解条項は、本件土地が原告、訴外大沢、同宮崎の共有であることが確認されているだけであるから、かかる事実は本件土地が原告の単独所有から原告を含む三名の共有となつたこと、したがつて、原告を含む三名が本件土地に関する特別土地保有税の連帯納税義務者となつたことを意味するにすぎず、決定等にかかる課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実になんら変化をきたすものでないとの理由によりこれを棄却した。

6  原告は被告に対し、昭和五四年九月一〇日、本件処分に対し、行政不服審査法に基づき異議の申立をしたが、被告は昭和五四年一〇月六日到達の書面で右異議の申立を却下した。

二  右一の当事者間に争いのない事実を前提として、次に、被告のした本件処分が適法であるかどうかにつき検討することとする。

1  まず、一般の更正の請求について考えてみるに、原告は、本訴において昭和四九年度から同五一年度までの特別土地保有税については一般の更正の請求を求めてはいない旨主張しているが、成立に争いのない乙第一ないし第三号証の各一、二によれば、原告が右各年度の更正の請求を申立てた書面において、その更正の請求をする理由、請求をするに至つた事情の詳細について述べている事由は、一般の更正の請求の理由となる事由も含むものと解されるから、これを一般の更正の請求を含むものと解し、請求者としての適格を欠くとの理由で却下した被告の措置は、地方税法二〇条の九の三第一項が同項に基づく請求をすることができる者を申告書を提出した者に限つているということに照らし、なんら違法ではなく、したがつて、原告の右主張は採用できない。

また、昭和五二年度分については、同年度の特別土地保有税の法定納期限は同年五月三一日である(地方税法五九九条一項一号)ところ、地方税法二〇条の九の三第一項によれば、一般の更正の請求をすることができるのは法定納期限から一年以内となつているから、同五三年五月三一日の経過をもつて右期間を徒過することとなる。然るに、原告が本件更正の請求を申立てた日は、前記のとおり昭和五四年五月二四日(原告が申立書を発信した日。地方税法二〇条の五の三参照)であり、右事実によれば、原告が一般の更正を請求することができる期限を徒過していることは明らかである。したがつて、請求期間を徒過していることを理由として昭和五二年度分の一般の更正の請求を却下した被告の処分は適法であるといわなければならない。

2  次に特別更正の請求につき検討を加える。地方税法二〇条の九の三第二項第一号によれば、申告書を提出した者又は申告書に記載すべき課税標準等もしくは税額等につき決定を受けた者は、決定等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に関する訴についての判決、和解等により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき、その確定した日の翌日から起算して二か月以内に更正の請求をすることができると定められている。

(一)  そこで前掲事実よりすると、原告は、昭和四九年度から同五一年度分までについては地方税法六〇六条二項による賦課決定を受けた者として、同五二年度分については申告書を提出した者として、地方税法二〇条の九の三第二項の更正の請求をする適格を有するものとなり、また、成立に争いのない乙第七号証によれば、本件和解が成立したのは昭和五四年三月三一日であることが認められるから、和解成立の翌日即ち昭和五四年四月一日から起算して二月以内が特別更正の請求をなしうる期間となるところ、前記争いのない事実によれば、原告が本件更正の請求をしたのは遅くとも昭和五四年五月二五日であるから、特別更正の請求をすることができる期間内での請求と考えることができ、また、本件各証拠によるも、他に本件特別更正の請求を手続上違法とする事由は認められないので、本件特別更正の請求は手続上は適法である。

(二)  そこで、本件特別更正の請求の実体的理由の有無、即ち、昭和四九年から同五一年までの分は決定にかかる、同五二年度分は申告にかかる課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に関する訴についての判決、和解等により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときに該当するかどうか検討する。

前記乙第七号証によれば、本件和解によつて終了した訴訟は、訴外大沢、同宮崎が、原告に対し本件土地につきそれぞれ共有持分三分の一を有することに基づき、本件土地の共有持分三分の一について、真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記手続を求めるとして提起されたものであることが認められるが、訴訟物は訴の変更などにより変動を生じることもあることからして、要は、判決によつて確定された事実ないし判決と同一の効力を有する和解その他の行為によつて確定された事実が、本来このような場において確定されるべきものではなかつたと明白に認められるような特段の事由があつて除外せざるをえないようなときを除き、右確定事実が申告、更正又は決定に係る課税標準又は税額等の計算の基礎となつた事実と異なることになつたか否かを検討すべきところ、前掲乙第七号証によれば、本件和解条項が別紙和解条項のとおりであることが認められ、右和解条項によれば、本件和解によつて確定した事実は、原告、訴外大沢、同宮崎の三名がそれぞれ本件土地を各三分の一づつの持分でもつて共有していることであつて、原告が本件土地の共有者として地方税について、連帯債務者の地位を脱するところまではなんら確定してないし、また、この共有することとなつた時点についてはなんら定められるところなく、要するに右和解で確定しているところは、本件和解成立の日である昭和五四年三月三一日において、右三名が各持分三分の一ずつで本件土地を共有していることにとどまるのである。本件和解条項第二項は、訴外大沢、同宮崎には、原告が過去に支払つた特別土地保有税の各三分の一の支払義務があることを認めているけれども、右条項は単に過去に支払つた税額の分担を定めるのみであつて、そうすることが共有関係にあることを常に理論的な前提とするものではないから、右条項をもつて、その当時から共有であつたことが確定されたものと解することさえできない。税額相当の金員の分担を定めたからといつて当額税額の正当性が確定されるものではないと同様、本件土地の取得に対する特別土地保有税の税額の分担を定めたことにより、右三名が本件土地を各三分の一づつわけて取得したことが確定されたものと解することはできないのである。また原告は、本件和解条項中に本件土地の共有持分につき真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をする旨の取り決めがあることを根拠として、原告が本件土地の共有持分三分の一しか売買によつて取得しなかつたことが確定されたと主張するが、これが課税に当つての意義はともかくとして、もともと、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記は、抹消登記、更正登記に代る便法として認められてきたもので、他方登記が当事者の申請によつて形式的な審査を経て受理されるものであり、また、訴訟当事者は本件におけるような和解において登記原因を前示したところよりある程度便宜的に定めることができるものであることからすれば、右所有権移転登記手続をすることを定めたことは、和解において確定した右三名の共有に属するという権利状態に合致するよう登記手続をすることを定めたことを意味するにすぎず、このような手続をするとしても、原告が本件土地を取得する当時から、もともと本件土地の共有持分三分の一しか取得しなかつた場合もそうでない場合そのほかさまざまな場合がありうるから、原告が主張するような事実までが確定したものと解することはできない。

ところで、本件土地に対する昭和四九年度から同五一年度までの特別土地保有税賦課決定及び同五二年度特別土地保有税納税申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実が、原告が単独で本件土地を昭和四九年から同五〇年にかけて時価相当額で購入したことであることは当事者間に争いのない事実であるが、これと、本件和解によつて確定した事実である、昭和五四年三月三一日現在において、本件土地を、原告、訴外大沢、同宮崎が各三分の一づつ共有しているとの事実は、決定等にかかる課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実である、原告が単独で、本件土地を、昭和四九年から同五〇年にかけて時価相当額で購入したこととは論理的には何ら矛盾するものではなく、また原告に対する課税内容を法律上改めなければならぬような基礎事実の差異をもたらすところはいかなる意味でもなく、課税標準たる不動産の価格などについても、本訴で対象とすべき限りで異なる事実が確定したことになつたとするところはうかがわれないといわざるをえず、結局、本件和解により右計算の基礎としたところと異なる事実は確定されていないのであり、したがつて、判決、和解等により、決定等にかかる課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実が当額計算の基礎としたところと異なることが確定したときに該当しない。

(三)  以上のとおりであるから、地方税法二〇条の九の三第二項第一号の「本件和解によりその事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」に該当せず、したがつて本件特別更正の請求は棄却されるべきである。

3  ところで、乙第一ないし第五、第八、第九号証の各一、二及び前記当事者に争いのない事実によると、被告は、本件処分において、「昭和四九年度から昭和五二年度までの申告納税に係る更正請求は受付けられない」旨述べているが、右各証拠によると、実際は、本件更正の請求の申立書を形式的不備によつて不受理としたのではなく、受理したうえで、一般の更正を却下し、特別更正の請求を棄却し、両者の処分を含む趣旨で「受付けられない」と表現したことが認められる。そうすると、その表現は適切ではないが、一般の更正の請求を却下し、特別更正の請求を棄却するという両処分を含む趣旨として「昭和四九年度から同五二年度までの申告納税にかかる更正の請求は受付けられない」とした被告のした本件処分はいずれも適法である。

三  そのほか、原告の本訴請求を理由あらしめるような事由は主張されておらず、本訴においてうかがいえないので、原告の本訴請求は理由のないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷川克 高山浩平 岡部喜代子)

第一、第二物件目録〈省略〉

和解条項

一 原告、訴外大沢、同宮崎は、本件土地が訴外大沢、同宮崎及び原告の共有に属することを確認する。

二 訴外大沢、同宮崎は、原告が本件土地につき昭和四九年度ないし昭和五三年度の固定資産税、特別土地保有税(取得による保有税を含む。)として金一〇四九万八八八〇円を支払つたことを確認し、訴外大沢、同宮崎は原告に対し各自右金員の三分の一である三四九万九六二六円の支払義務あることを認め、これを本日和解の席上で支払い、原告はこれを受領した。

三 前項の特別土地保有税の課税額につき疑義があるため、原告は訴外大沢、同宮崎と協力して過払と考えられる税額の還付を受けるよう努力し、右金員の還付を受けたときはすみやかにこれを三等分し、訴外大沢、同宮崎に対しそれぞれ右三分の一の金員を支払う。

四 原告は訴外大沢、同宮崎に対し直ちに本件土地の三分の一の共有持分権につき真正な登記名義の回復を原因として共有持分移転登記手続をする。

五 本件土地の昭和五四年度固定資産税、特別土地保有税が原告名義で賦課されたときは、訴外大沢、同宮崎は右金員の三分の一の金額を遅滞なく支払う。

六 訴訟費用は各自の負担とする。

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